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とりあえず肩を揺すって起きないなら……そうだな、より体の中心に
近い部位を揺すってみる必要があるだろう。
「というわけで……やはりここだな」
俺は眠り姫を起こす王子のような気分に浸りつつ、その存在の誇張に
余念がない脂肪の塊に手をやった。そしてその重量感を楽しみつつ、
ゆっくりとこねくり回して柔らかさを堪能していく。
「――人が黙ってると思って……なにやってんのよ」
まさに地から響く、野生の獣が唸るようなドスの利いた声で
朱志香は俺にたずねかけてきた。
完全に眠っていると思っていた彼女は、実は狸寝入りだったようだ。
「じぇ、朱志香、お、起きたのか。こ、こ、こんなとこで寝てると」
「風邪ひくぞ〜……」
空笑いを浮かべ、その場を立ち去ろうとした俺の腕を、朱志香は
鋭い動きでムンズと捕まえ、さらに低い声で俺に侮蔑の限りを篭めて
言い放った。
「闘人……あんたはエッチだけど、こんなサイテーなことはしない」
「人間だと思ってたのに……見損なったわ……」
それだけ言うと、俺の手を握り締めていた手をゆっくりと解き、
まるで自らを守るかのようにその身体を抱きしめ、ソファの上で小さく蹲った。
その姿は年齢以上に彼女を幼く見せ、俺は取り返しのつかないことを
してしまったんだという後悔の念で頭がいっぱいになった。

その後は俺が何を言っても朱志香は一切反応せず、夕食時になっても
彼女の姿はダイニングにはなかった。
そしてその一件以来、俺は彼女の姿を見ることがなかった。
おじさんたちは朱志香は先に家へ帰ったと行っていたが、ここは本島から
相当離れた内海の孤島だ。ボートもなしにどうやって帰ったというのか……。
俺は一体どこで間違ってしまったのだろうか?

[END]
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