平成21年度「こころの健康づくり対策」研修会

思春期精神保健対策専門研修会 コメディカルスタッフ通常コース 参加報告

内観療法課 伊藤恵理

 

日程:平成21年12月16日(水)〜12月18日(金)

会場:全日空ゲートタワーホテル大阪 

 

スケジュール

【平成21年12月16日(水)】

 

開講式  (12:30〜13:00)   厚生労働省挨拶

1限目  (13:00〜15:00)  高岡健(岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野)少年事件の背景

2限目  (15:15〜17:15)  齊藤麻比古(国立国際医療センター国府台病院)AD/HD、反抗挑戦性障害など

3限目  (17:25〜19:25)  水田一郎(神戸女学院大学人間科学部)不登校、ひきこもり         

 

【平成21年12月17日(木)】

 

1限目  (9:30〜11:30)   関口典子(兵庫県立光風病院)児童虐待関連障害、PTSD

2限目  (13:00〜15:00)  飯田順三(奈良県立医科大学医学部看護学科)子供の感情障害と統合失調症

3限目  (15:15〜17:15)  松田文雄(松田病院)子供の診方と接し方 

4限目  (17:25〜19:25)  十一元三(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)自閉性障害

 

【平成21年12月18日(金)】

 

1限目  (9:00〜11:00)   山崎晃資(目白大学大学院生涯福祉研究科)アスペルガー障害

2限目  (11:10〜13:10)  山崎透(静岡県立こども病院こどもと家族のこころの診療センター)児童思春期の入院治療 

閉講式  (13:10〜13:25)  修了書授与

 

 

 

今回の研修会は、思春期におけるこころの問題が社会問題化していることを背景に各機関での活動の充実強化を図るため、思春期児童の心のケアの専門研修として開催された。参加者は、全国から109名であり、病院関係者の参加が約半数、残りの半数は、保健所、精神保健福祉センターなどの関係者であった。発達障害が世間に知られるようになり、ここ10年で精神科の総患数が約2倍に増加するなどの現状もあり、どの講演でも発達障害というキーワードが使用されていた。アスペルガー障害を含むその他の広汎性発達障害や児童精神疾患の症状を臨床経験に基づいて講演して頂き、診断基準に記載された文章を理解できたことは、自分自身の収穫となった。広汎性発達障害は、鑑別が非常に重要で、診断が難しいことも理解でき、安易に診断されてはいけないものであることを学んだ。診断にこだわるのではなく、その人にどのようなサポートをできるのかが、一番大切だと感じた。今回、臨床経験の豊富な講演者から、多様な視点からの見立て方、知識などを学び、貴重な機会となった。今後の臨床で活かせるようにしていきたいと感じた。

 

今回の研修で学んだ内容を以下にまとめます。⇒印は私の感想です。

 

1.       少年事件の精神鑑定

@     背景に発達障害がある場合、視覚優位という障害の特徴からTVドラマ、映画などで見た映像を同様に表現し、形式面に及ぼす影響が残虐な犯行として捉えられることが多い。

⇒障害ゆえの残虐さということを裁判官、世間の人が理解する難しさを感じた

 

2.       ADHD(注意欠陥/多動性障害)

@     鑑別診断では、アスペルガー障害等のPDDに要注意。幼児期、学童期までは、PDDの特徴である固執は、衝動性として現れることが多く、ADHD的に見えることが多い。また、思春期には、対人関係が複雑化し、トラブルが多くなることから、ADHDでもPDD的に捉えられることがある。 ⇒診断の難しさ

A     ADHDの併存障害は、反抗挑戦性障害、非行などの行動障害群が約50%、分離不安、うつ、適応障害などの情緒障害群が約25%、LD、アスペルガー障害などの発達障害群が約30%であり、ADHDの症状のみではなく、関連する発達障害、二次性障害が表現形として見えてくる。

⇒医療者は、多方面から理解しなければならない 

 

3.       PDD(広汎性発達障害)

@     PDDにおける幻覚・妄想は、統合失調症の幻覚・妄想と内容が異なる。PDDは、自分の筋道と異なることに対して出現し、納得すると消失する。

⇒どのような幻覚・妄想であるのか内容追求が必要と思われる

A     PDD-NOSは、定型発達とアスペルガー障害、アスペルガー障害と自閉性障害のどちらの間でも診断として用いられている。割合が多い要因の一つとして、診断の手間が考えられる。

⇒基準は、満たさないが近似の症状を呈しており、サポートの対象と捉えることが大切

 

4.       アスペルガー障害

@     アスペルガー障害の性質を最初に考察したWing,L.(2000)は、「アスペルガー障害は、自閉症スペクトラムの一部であり、他の自閉性障害と区別される明確な境界はないことと、その可能性が強いことを強調する」と述べている。 

⇒自閉症とアスペルガーを区別するのではなく一連のものと考え、線引きするものではない

A     共同注意の実験では、定型発達とアスペルガー障害には共同注意が認められ、自閉症には認められなかった。扁桃体に関与している可能性が高いが確証はない。今後、解明される可能性も考えられる。

B     アスペルガー障害に特徴的な心理検査のスコア(PIQ低い、ロ・テスト反応数多い)は、存在するが、心理検査のスコアからアスペルガー障害と診断はできない。  ⇒患者の特徴を捉えるための活用

 

5.       不登校・ひきこもり

@     不登校、ひきこもりの中には、精神疾患をもっている場合があり、統合失調症も最初は顕著な症状をみせないため、不登校という症状から現れることが多い。不登校は、第1軸:背景疾患の診断、第2軸:発達障害の診断、第3軸:不登校出現家庭における下位分類の評価、第4軸:不登校の経過に関する評価、第5軸:環境の評価といった多軸評価する必要がある。環境の評価の中に親の精神疾患、親との関係、虐待などが含まれる。

 

6.       患者との関わり方

@     児童虐待関連障害、PTSDの症例では、カンファレンスで統一した関わりの検討が必要。優しいスタッフと厳しいスタッフの両極端な関わりがPtに混乱、トラブルの原因を招く。

⇒スタッフがトラブルの原因をつくることになるので注意する必要性を感じた

A     トラウマは、大小問わず、みんな抱えている。治療者が共感できることを患者が抱えていると、入れ込む可能性が高く、患者に入れ込みすぎると距離がなくなり、愛着障害が起こる。 ⇒患者との距離感の重要性を感じた

 

7.       ICD-10、DSM-IV

@     ICD-10、DSM-Wは、暫定的な診断基準のため、診断基準のみで診断はできない。ICD-10でも「アスペルガー障害は、疾病分類学上の妥当性が未だ不明な障害であり…」と明記されている。

⇒操作的な診断ではなく、伝統的な診断が必要

A     ICD-10改定案では、@神経認知的障害A神経発達的障害B精神病群C感情障害D外面化障害の5分類により構成され、自閉症、アスペルガー障害はA、多動性障害、ADHDはDに分類。現在、アスペルガー障害の診断は@社会的相互作用の障害A社会コミュニケーションの障害B想像的活動の障害の3つから成り立つが、@社会的コミュニケーションの欠如A限定的な興味/反復性の行動の障害の2つの診断基準となる予定。

     

8.       その他

@     こどものうつ病では、抑うつ気分は、イライラ感、不機嫌な態度、不安焦燥感として出現すること多い。

⇒エネルギー低下により思い通りにならない気持ちがイライラ感として表現されることに要注意が必要

A     自閉性障害の薬物治療は、随伴症状(パニック、衝動、知覚過敏など)に使用することが多い。

しかし、SSRIを使用したのにも関わらず、知覚過敏が消失するなど効果が曖昧。

⇒処方の難しさを感じた